世界と人生を彩るもの

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本 有川浩「空飛ぶ広報室」 本の感想にしては重い話・・・


航空自衛隊の広報室が舞台の作品。

最近妹が号泣した!ぜひ読んで欲しい!!と言ってきたので、図書館で借りて読みました。読んでみた結果、「泣ける作品」として紹介する気はおきませんが(「泣ける」が売りの作品ってそれだけで安っぽくなってしまうし・・)、ぐっと胸にせまるような物語でした(必ずしも終盤だけが感情のピークではありません)。

私は父が元自衛官なので、読むにあたっての影響はあったかもしれません。陸・海・空の個性の描写とか、それぞれが自分の所属が一番だ!と思ってそうな感じとか。

あとは、私が中学生~高校生のときに、中二病みたいな感じで「自衛隊反対!」と父の職業をけなした時期があって、この作品の中で出てくる、自衛隊への態度というのはそのときの私の態度と全く一緒で、当時の若気の至り的な恥ずかしさを思い出していたたまれなくなりました。自衛隊の存在に賛成だろうが反対だろうが、いち人間を否定したり傷つけていい権利なんて誰ももってないんだよなあって。。。

有川浩さんの作品は図書館戦争と植物図鑑と阪急電車(そして他にも)を読んでいますが、それぞれ女性の悩みや葛藤だったり、若いころのこういう恥ずかしい思い出あるよなーだったり、そういう描写がうまい作者さんだとは思っていました。そして今回も、いろいろな悩み葛藤が丁寧に描写されていました。

ただ自衛隊というある意味デリケートな素材を”うまく”伝えようとした結果、丁寧すぎるきらいもあるかもしれなです。それをわざとらしく感じる人もいるかもしれないなーと。


あとがきで、もともと2011年8月に出版されるはずだったこの作品が、東日本大震災が起きたことで、それをなしに出版できないと、その内容も含めて2012年8月に出版されることになったと書かれています。

私自身の話になりますが、父も当時陸上自衛隊の一員として震災後の現地に赴きました。父はその地震のとき、別の任務で北関東にいて、尋常ではない揺れの中にはいたものの、津波自体には直面していません。その後、宮城県沿岸部に派遣され、「地震津波に破壊されたもの」に対峙しました。父は5年経った今でもトラウマに苦しんでいるように見えます。最大震度の揺れや津波に直面していなくても、人間が築いてきた生活をまるごと破壊する自然の力を目の当たりにして、ショックを受けることは人間として当然のことでしょう。ただ、自衛隊の方々(そしてきっと警察官や消防、医療従事者やすべての「救助・支援する側」だった人たちを含む)は、「救助すること・支援すること」が業務上”当然”であるがゆえに、恐ろしい自然の力に触れた恐怖や辛い気持ちをつぶやくことさえ難しかった(許されなかった)。いま、被災地から離れた場所で日常生活を送っている父は、当時のことを”使命”として重要なことをした!くらいの位置づけだろうし、それが自分に何か影響を与えたとは思っていないようですが、自分でも気づかないトラウマに苦しんでいます。
父だけじゃない、自分でも気づかずに苦しんでいる人達の、その報いにこの本はなっているように思います。この本で、初めて彼らの働きが、苦しみが、「認め」られていると思います。

なんとなく公に当然とされているもの、なんとなく公に嫌われているもの、なんとなく公に傷つけていいと思われているもの、それに対して今一度、自分の観点をもつきっかけをくれる作品です、といったら大げさでしょうか。

読む人によって、(そこまで深く重くしなくても)読める作品なので、ぜひ読んで欲しいです。